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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)272号 判決

東京都世田谷区太子堂1丁目4番21号

原告

長谷川体育施設株式会社

同代表者代表取締役

植木建雄

同訴訟代理人弁理士

松田喬

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

高島章

同指定代理人

宮下正之

吉野日出夫

関口博

主文

1  特許庁が昭和60年審判第2420号事件について平成6年9月19日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年10月19日、「グリーンサンド」の片仮名文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)について、商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前)別表第2類「植物生育用人工土壌、及び、他の肥料」を指定商品とし、出願人の業務を「舗装材料製造業」と表示して商標登録の出願(昭和58年商標登録願第99383号)をしたところ、昭和59年11月9日、拒絶査定を受けたため、昭和60年2月11日、これに対する審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和60年審判第2420号として審理したが、平成6年9月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月2日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願商標の構成、指定商品及び出願の経緯は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、原査定においては、「この商標登録出願の願書に記載された出願人の業務によれば、出願人は指定商品に係る業務を行っているものとは認められない。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない。」として、本願を拒絶した。

(3)  そこで、判断するに、請求人(出願人、原告)は、スポーツ施設等の舗装に関する建築又は構築用の材料の生産、販売に係る業務を行っているものと認められるが、本願指定商品と直接関係する業務であるところの、例えば、植物を生育させるための人工土壌又は化学肥料、天然肥料若しくは配合肥料等の生産、販売等を行っていることについては、これを認めるに足りる証拠の提出がない。

(4)  したがって、本願商標は、自己の業務に係る商品について使用するものとはいえないから、商標法3条1項柱書により登録することができない。

3  審決を取り消すべき事由

(1)  現行商標法は昭和35年4月1日から施行されたが、同法においては、出願人の「業務」を記載することを必要としておらず、現に、同法の施行後の出願については「業務」の記載を要しなかったところ、昭和51年1月1日に同法施行規則(昭和50年通商産業省令第85号)が施行されたことにより、上記記載を要するものと定められるに至った。

しかしながら、省令をもって法律を制約することは許されないはずであるから、審決が「業務」の記載内容をもって本件商標登録を拒絶することは違法である。

(2)  原告は、体育施設を設置する業務を営むとともに、「グリーンサンド」なる商品を業務として販売しているが、「グリーンサンド」については、その有する吸水性を利用して独り「グリーンサンド」を用いるのみならず、その下に各種の肥料を配することも可能であり、またその下の土質について植物育成栄養分を良好に含有する対象を選択すれば、この土質の栄養分を「グリーンサンド」の土壌が良好に吸収するものであり、更に「グリーンサンド」と別の各種肥料を混合して「グリーンサンド」の土壌を構成することも可能である。

したがって、「グリーンサンド」は、それ自体が植物生育用人工土壌に該当するものというべきであるから、原告が本願商標の指定商品に係る業務を行っているとは認められないとした審決は違法である。

(3)  原告は、現在、「ソイルエース」という商品を業務として販売しているが、「ソイルエース」は「植物生育用人工土壌」に関する商品であるから、原告は本願商標の指定商品に係る業務を行っているものというべきであり、原告が上記業務を行っているとは認められないとした審決は違法である。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1及び2の事実は認める。

2  請求の原因3(1)は争う。

商標法3条1項柱書の規定は、出願された商標が出願人の業務に係る商品について使用されるものと認められないときは、上記商標について商標登録を受けることができないことを意味している。昭和50年の改正前における商標法施行規則では、願書に出願人の業務に関する事項の記載を要求していなかったが、その場合においても、特許庁は、出願人が「自己の業務」に係る商品について商標を使用しないことが明らかであるときは、商標登録を拒絶していた。昭和50年の前記施行規則の改正は、そのような業務に関する審査の運用を強化するためになされたものであり、現行商標法の解釈について何ら変更をもたらすものではない。

3  請求の原因3(2)は争う。

原告の業務は、その願書に「舗装材料製造業」と記載されているところ、舗装材料とは、道路面の耐久性を増強させるための路面の築造用に用いる煉瓦、木塊、コンクリート、アスファルト等の材料を指すものと解され、また、原告の販売に係る「グリーンサンド」なる商品は、校庭、テニスコート等スポーツ施設等についての地表面の表層用舗装材料であることが明らかである。そのため、「グリーンサンド」は、「主として建築又は構築に使用される材料を集めた類」である商品の区分(商品の区分については平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表、以下同じ)第7類における「建築または構築専用材料」に属する商品というべきであり、それ自体が同表第2類の肥料に包含される「植物生育用人工土壌」に属する商品にあたるものとは認めることはできない。

したがって、原告については、原告の上記主張から、同表第2類に属する商品(本願指定商品)に係る業務を行っているものと認めることはできず、審決の認定、判断に誤りはない。

4  請求の原因3(3)の事実は認める。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討すると、請求の原因3(3)の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第38ないし40号証、同第42号証、同第43号証の2の1によれば、原告の販売に係る「ソイルエース」なる商品は、真珠岩を特殊加工した白色粒状の無機質系の土壌改良材であり、通気性、透水性、水分の持続性に優れ、用土の土質に合わせて一定割合の分量を混合することにより、芝生床土の旱魃を防ぎ、芝生の生育を促進させる等の効果を奏する商品であることが認められる。

上記事実によれば、原告の販売に係る「ソイルエース」なる商品は本願商標の指定商品中の「植物生育用人工土壌」に該当するから、原告は本願商標の指定商品について業務を行っているというべきである。

3  したがって、本願商標は自己の業務に係る商品について使用するものとはいえない、とした審決の認定判断は誤りであり、その余の取消事由について判断するまでもなく、審決を違法として取り消すべきである。

4  そうすると、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものというべきであるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民訴法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

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